235. 2026/11/01 Binanceから約1兆円が不正流出
内容紹介
kokorokagamiとtoudenの2人で、MMX初期運用が正常完了、健全性を確認、PHPに深刻な脆弱性2件、修正版を公開 など について話しました。
出演者
以下のようなトピックについて話をしました。
01. MMX初期運用が正常完了、健全性を確認
JAXAは2026年10月21日、H3ロケット10号機で打ち上げた火星衛星探査機「MMX」が、打ち上げ直後の「初期クリティカル運用フェーズ」を正常に終え、機体の健全性を確認したと発表しました。H3は10月20日4時41分に種子島宇宙センターから打ち上げられ、約1時間11分後にMMXを分離しました。その後、太陽電池パドルの展開、三軸姿勢の確立、通信用ミドルゲインアンテナの保持解放といった重要なシーケンスが順調に実施され、翌21日に健全性が確認されたということです。今後は搭載機器の初期機能確認を進めながら、火星圏へ向かう「往路巡行運用フェーズ」の準備に入ります。
MMXは、火星の衛星フォボスに着陸して表面物質を採取し、地球へ持ち帰るミッションで、成功すれば火星の衛星からの世界初のサンプルリターンとなります。フォボスは火星表面から約6000km上空を回る直径20〜30kmほどの小天体で、本格的な探査がまだ行われておらず、JAXAは「太陽系で最も重要な未踏峰」と呼ばれることもあると説明しています。探査機はフォボスに2回着陸し、10g以上の試料採取を目指します。火星圏への到着は2027年8月、地球帰還は2031年7月の予定で、試料カプセルは「はやぶさ」「はやぶさ2」と同様にオーストラリアで回収される計画です。約5年に及ぶ旅の行方に注目が集まっています。
02. PHPに深刻な脆弱性2件、修正版を公開
2026年10月21日、The PHP Groupは、PHPの深刻な脆弱性2件(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619)を修正するセキュリティリリースを公開しました。公表前に情報漏えいや番号の誤流出があり、予告より早い公開となりました。
2件はいずれも認証不要でリモートコード実行(RCE)につながりうる脆弱性で、CVSS v4.0は9.2(Critical)です。前者はメモリ不足(OOM)時の処理中断でメモリが不正な状態になる問題、後者はリクエストをまたいで残る状態が解放後に使われる問題です。PHP-FPMやmod_phpなどWebリクエストを処理する環境が対象で、特にmod_phpでは、アプリのコードが動く前に攻撃できることが実証されています。発見にはWiz、Calif.io、OpenAIが関わり、AIモデルも活用されました。
影響を受けるのはPHP 8.2〜8.5の修正版未満で、修正版は8.5.12、8.4.27、8.3.36、8.2.35です。7.4〜8.1にも最小限のバックポートが提供されました。完全な対策は更新だけで、session.upload_progress.enabled=0やmemory_limitの設定などは一部の攻撃経路を減らす補助策にとどまります。主要なLinuxディストリビューション、国内ホスティング事業者、WAF/IPSベンダーも、修正適用、予防的なサービス停止、遮断ルールの提供などで対応しました。
悪用の試行は修正版公開前から観測され、公開後に急増しました。CISAは10月26日に両脆弱性をKEVカタログへ追加しています。一方、成功した悪用の確証は限られています。公開されたPoCの多くは、PHPのバージョンや構成、メモリ配置など条件が揃わないと動作せず、汎用的な攻撃は難しいとの分析が多くなっています。ただしJPCERT/CCなどは、侵害の有無の確認を求めています。
OOMの問題は、2024年の外部監査で兆候が見つかっていたものの、修正方針の合意が難しく、対応が停滞していました。The PHP Foundationはこれを構造的な失敗と総括しています。
03. eMudhra中間CA秘密鍵漏えいと信頼ストア除外
eMudhra中間CA秘密鍵の危殆化インシデントの要約
2026年10月17日、研究者の報告により、認証局eMudhra(emSign)の中間CA証明書8件(TLS用6件、コード署名用2件)の秘密鍵が、公開鍵から誰でも求められる状態だったことが判明した。原因は2025年4月のキーセレモニーにある。承認済みの逸脱手順の最中にコードの欠陥で弱い鍵対がHSM内に作られ、鍵ラベルが似ていたため誤ってCSR作成に使われ、ルートが署名したという。TLS用の鍵があれば任意ドメインの証明書を発行でき、通信の傍受や改ざんにつながるおそれがあった。
対応は迅速だった。報告当日にChromeがCRLSetで、MozillaがOneCRLでTLS用6件を遮断し、Firefoxへの配信はMozillaの受領から3時間未満で完了した。eMudhraは翌18日に8件を失効し、Sectigoも相互署名分の失効を19日に終えた。悪用の証拠は確認されておらず、CTに記録のない偽造証明書はCT強制クライアントでは信頼されなかったとされる。
しかし10月20日、複数の人物が秘密鍵を独自に回収し一部を公開したことが分かった。Mozillaは失効情報を参照しないクライアントも守るため、ルートのemSign ECC Root CA - G3を信頼ストアから緊急除外した。Chromeも10月27日に配信予定のV43で削除する。これにより、危殆化していない中間CAの証明書約30,000件も再発行が必要になり、その99.9%は米国の研究教育機関向けサービスInCommon関連だった。Canonical、Debian、Red Hat、Go、Node.js、Java、Python、Electron、各種CAバンドルも相次いで対応した。
10月22日、eMudhraは世界向けSSL/TLS証明書事業からの撤退を発表した。理由として、売上比率が約1%にとどまること、規制対応のコスト増、無償証明書の普及、本件で受けた過大な精査を挙げている。影響を受ける顧客の証明書は無償で置き換え、根本原因の報告も約束した。ただしキーセレモニーの詳細など、Chromeや第三者からの質問への回答はまだない。
04. AGENTS.md経由でAIエージェント乗っ取り
2026年10月22日、Forever Securityは、顧客端末でAIエージェントが既知の悪性npmパッケージ「function-color」を導入しようとしたのを、コード実行前に遮断したと公表した。指示の出所は、ダウンロードフォルダにあった AGENTS.md だった。エージェントが起動フォルダの指示ファイル(AGENTS.md、CLAUDE.md)に従い、自らの設定を書き換えて乗っ取られるという手口である。誰がどう置いたかは不明で、実攻撃での配置経路も公表されていない。
同社の再現試験によると、Codexでは、開発ガイドライン風の長い文書が個人設定 ~/.codex/config.toml にMCPサーバーを登録させ、悪性パッケージ導入と全フォルダに及ぶ持続性を実現する。信頼ゲート、起動時のみの読み込み、ネットワークのサンドボックス、タイムアウトの各制御を迂回する構成だ。Codexが試験の90%超でマルウェアを実行したとするが、大半は無害な代替パッケージで、試験回数や版は非公表である。Claude Codeでは、ANTHROPIC_BASE_URL を書き換えてAPI通信を攻撃者側へ向け、OAuthトークンの窃取やサンドボックス無効化によるコード実行を狙う。設定書き込みの成立は約半数、同一セッションでのコード実行は約5分の1だった。
Foreverは、エージェントは設計どおりに動いており、開発元がパッチすべき脆弱性ではないとの立場だ。確認項目として、想定外の [mcp_servers.*] ブロックや不審な接続先設定を挙げ、見つけた場合はトークンを更新するよう勧めている。
公表後の検証では見方が分かれた。BleepingComputerは、PoCページで無害な AGENTS.md が保存されることまでを確認し、成立にはその場所でエージェントを起動する必要があると指摘した。一方、第三者はCodex 0.160.1とClaude Code 2.1.296で計80回試したところ、成功は0回で、両者とも攻撃と認識して拒否した。ただし条件が異なるため、Foreverの結果が誤りだとは断定していない。
05. Linuxカーネルに深刻なUAF脆弱性
2026年10月15日に公開されたLinuxカーネルの脆弱性CVE-2026-98432は、IPv4のTCP接続処理で、要求ソケットのIPオプションが解放された後も別のCPUが読み続けるuse-after-freeです。認証は不要で、接続を受け付けるサーバーにネットワーク経由で到達できれば攻撃対象になります。発見と報告はAnthropicで、10月27日にはMPTCPのリスナーを持つサーバーに対し、遠隔からrootでコマンドを実行する実証を公表しました。この実証では、競合で情報を漏えいさせてKASLRを突破し、続いてバッファ溢れでコールバックを書き換えます。PoCに要した時間は、ポインタ漏えいに48分、コマンド実行までに5分です。
原因は、IPオプション付きSYNの再送処理と接続の破棄が別CPUで競合し、通常のkfree()で解放済みの領域を読むことです。要求ソケットの移行機能を使う経路でも同様の問題が起きます。影響は情報漏えい、メモリ破壊、カーネル停止です。修正はkfree()をkfree_rcu()に変更するもので、影響範囲は4.4以降の各系列の修正版より前のカーネルです。上流の修正版は5.10.272、5.15.223、6.1.190、6.6.159、6.12.113、6.18.56、7.2.10、7.3の8系列です。
評価は分かれています。Linuxカーネル CNAはCVSS 3.1で9.8(攻撃の複雑さLow)としましたが、Red Hat、SUSE、Oracle、Amazonは8.1(攻撃の複雑さHigh)です。Ubuntuは3系で9.8、4.0系で8.3としています。KEVには未掲載です(10月29日版)。
配布元の対応状況(10月30日時点)は次のとおりです。
- Debian:securityリポジトリで修正済みです。
- Oracle Linux:UEK向けエラータが提供済みです。
- Amazon Linux:AL2023の一部で修正済みです。
- Ubuntu:修正版は未提供で作業中です。
- Red Hat:RHEL 8〜10などが影響ありとされています。
- SUSE:製品ごとに対応状況が混在しています。
対応としては、最新のstableカーネルへの更新が推奨されています。Red Hatは、基準を満たす緩和策はないとしています。なおAnthropicの実証条件はMPTCPのリスナーですが、CVEの記述はIPv4のTCPサービス全般で、両者には差があります。
06. Binanceから約1兆円不正流出
2026年10月29日、Binanceのホットウォレットから不正な出金が行われ、被害額はBinance推定で約63億ドル(約1兆円相当)に上った。外部の推計もTRM Labsが約63.6億ドル、Chainalysisが約59.12億ドルと近い水準である。Binanceは損失をSAFUファンドと自社資金で全額補填するとし、利用者資金は安全だと説明している。
初期調査では、DevOpsエンジニアのノートPCが侵害された可能性があり、攻撃者がサービスコンテナ経由で不正な出金トランザクションを送ったとされる。秘密鍵の漏えいの証拠はなく、TRM Labsなどは署名インフラの侵害が有力とみている。
オンチェーン解析によると、攻撃者はTornado Cashで資金を用意し、sweeperコントラクトで予行を重ねた。20時05分(UTC)から、XRP LedgerやSolana、Bitcoinなど複数チェーンで通常の署名済み送金により資金を移した。Ethereumでは、Binanceのホットウォレット「Binance 14」にEIP-7702の委任を設定させ、約3分後に16.15億USDTや16万超のETHなどを一括で抜き取った。
対応では、TetherやCircleが約21時に凍結を開始し、Ripple、World Liberty Financial、Paxos、Arbitrum DAOなども凍結を実施した。AaveやKaminoは予防措置を取り、Binanceの凍結総額は約30億ドルに達した。TRM Labsは、凍結できない形の約24億ドル相当を攻撃者が保有しているとみている。
TRM Labsは、北朝鮮のTraderTraitorによる犯行と高い確度で判断した。一方、BlockaidのCEOは「類似しているが未確認」とし、Binanceも法執行機関と特定を進めている。
Binanceは入出金を一時停止したが、共同CEOは入金が通常稼働していると述べ、48時間以内に出金再開を始める見込みを示した。Binance JapanとBinance THも安全確認のため入出庫を停止した。詳細な技術的ポストモーテムは調査完了後に公表される予定である。
07. HTTP2Shell脆弱性に注意
HTTP2Shell(CVE-2026-111497、別名Node2Shell)は、Googleが開発した圧縮方式Brotliのデコーダーに存在する脆弱性です。細工された圧縮データを展開する際、不正データの処理を打ち切るべき場面で処理が続き、内部バッファの範囲外に書き込みが発生します。その結果、プロセス停止やメモリ情報の漏洩、条件次第ではリモートコード実行(RCE)に至るおそれがあります。名称にHTTPとありますが、HTTP/2に限定された問題ではありません。CVSS v4.0は9.2(Critical)ですが、Node.jsの公式告知ではHighとされています。
攻撃経路は2つあります。1つは、Express 5などがBrotli圧縮されたリクエスト本文を展開する経路です。もう1つは、Node.js組み込みのfetchなどが外部サーバーのBrotli圧縮レスポンスを展開する経路です。
影響範囲はNode.jsにとどまらず、Python関連パッケージ(Brotli、brotlicffi)、Bun、Envoy、Istioなどに及びます。urllib3やrequestsはコードにBrotli呼び出しがなくても、パッケージがあれば自動展開するため確認が必要です。修正版はBrotli 1.2.1、Node.js 22.23.4/24.22.1/26.12.1、Bun 1.4.4などです。Go向け実装でもpanicと接続切断が報告されていますが、任意コード実行は実証されていません。
Impervaは、Node.js 24.22.0でのコード実行を複数回の試行で再現しました。ただし、すべての環境で成立するとは限りません。CISAの評価では、2026年10月23日時点の悪用状況は「none」でした。
対策の基本は修正版への更新です。Node.jsはランタイム自体を更新します。Pythonは仮想環境やコンテナーごとに確認し、イメージを再ビルドします。Bunのbun build --compileで作った配布済み実行ファイルは自動では直らないため、再ビルドが必要です。すぐに更新できない場合は、Brotli圧縮データが展開される前に拒否するか、展開を無効化します。Accept-Encodingからbrを外すだけでは不十分です。更新後は稼働中のプロセスへの反映を確認し、異常終了やログから侵害の兆候も調査してください。
本ラジオはあくまで個人の見解であり現実のいかなる団体を代表するものではありません
ご理解頂ますようよろしくおねがいします
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touden