ADR-0021: 知財潔白性を全件に求め、検知の結果ではなく検査を実施した記録を判定対象とする
採用(2026-08-06)。一部を置き換え(2026-10-13): 決定2 のうち「検収」の語に関わる部分は、ADR-0069が置き換えました。「影響」が取得できなかったと記録したモデル契約の条項は、同 ADR の調査が原典で読みました。
コンテキスト
Section titled “コンテキスト”第8章 軸D は受託開発の検収を「受入基準への適合に限定し、生成手段を問わない」と規定していたが、生成物への他者の著作物の混入を検出する手段を伴っていなかった。製品を市場に出した発注側が第三者から権利侵害を主張された場合、責任を負うのは発注側にあたる。
あわせて、AI 利用の開示を契約で義務づけている実例は、調査で一件も特定できていない。契約側の様式(テンプレ8)だけが先行し、それを裏づける機械検査が空いていた。
調査により次を確認した(research/phase4-standard/129-ip-clearance.md)。
- 生成・利用段階の判断基準は通常の著作権侵害と同じであり、要件は類似性と依拠性の2つになる
- 依拠性は推認される。学習段階に当該の著作物が含まれていた場合、利用者が認識していなくても通常は依拠性ありと推認されるとされている。「AI が書いたので知らなかった」は抗弁にならない
- 推認を覆す但し書き(創作的表現が出力される状態にないこと)の立証は、モデルの内部に関するものであり利用者側では行えない
- したがって利用者が制御できるのは類似性の側と、講じた措置の記録だけである
- 生成が適法でも、生成物の利用まで直ちに適法とはならない。場面ごとの判断が要る
- 事業者の知財補償は条件付きであり、条件が変動する。2026-04-03 に、ある事業者の補償において複製検知機能の利用が要件から外れた実例がある。補償を受けるには要件への適合を利用者側で示す必要がある
- 依存関係のライセンス検査と、生成物と既存の著作物の類似の検知は別の問題である。前者は実務として確立し、後者は確立していない
- 知財潔白性の要求を、AI の利用の有無で変えない。全件へ一律に適用する。人が書いたコードにも他者の著作物は混入する
- 「生成手段を問わない検収」と両立させる。検収は仕様適合の判定であり、知財潔白性は成果物の属性である。別の軸として併存させる。どちらかを捨てない
- 依存関係のライセンス検査を G-5 の合否条件とする(判定基準5)。実務として確立しており、判定材料が観測可能な事実に限られる
- 生成物と既存の著作物の類似の検知を、合否条件にしない。実施と結果を記録し、出荷判定のエビデンスとする
- G-7 に判定基準8を加える。判定するのは「検出されなかったこと」ではなく、**「定めた検査を実施し記録したこと」**とする
- 新しいゲートを設けない。G-5 は機械判定であり判定者の帯域を消費しない。G-7 は記載事項が1つ増えるのみとする
- 許可リスト方式でライセンスを検査する。禁止リスト方式は、リストにない新しいライセンスを素通りさせる
- 判定できない依存を隠して通過させない。技術負債台帳へ記録して通過させる
- 類似の検知の手段を本標準が指定しない。指定すると、手段の提供条件が変わったときに規定が破綻する
- 事業者の知財補償を、検査を省略する根拠にすることを禁じる。補償の有無をテンプレ8 に記載させ、記載自体は求めるが、依拠は認めない
- 契約に「知財潔白であること」だけを書かせない。書くのは、実施する検査の範囲と手段、提出する記録、指摘が出た場合の措置とする
- 「著作権法に準拠する」と書かない。根拠とした文化庁の「考え方」は法的拘束力を持たない
検討した選択肢
Section titled “検討した選択肢”- 類似の検知を G-5 の合否条件にする — 統制としては強く見えるが、検出されなかったという結果が「潔白である」記録として残る。依拠性が推認される以上、この記録では防御にならず、むしろ誤った安心を与える。検知に完全さを期待できない
- AI を利用する場合にのみ検査を課す — 対象が絞れて負荷は下がるが、人が書いたコードの混入を見逃す。加えて「AI を使っていない」という申告に検査の要否を委ねることになり、申告を歪める動機を生む
- 検収を「知財潔白性を含む」へ改め、生成手段を問う構成へ変える — 責任は明確になるが、既存の検収実務から外れ、「既存実務へ載せられる」という利点を失う。両立できる以上、捨てる理由がない
- 事業者の知財補償に依拠し、自組織で検査しない — 費用は最も低いが、補償は条件付きで、条件は事業者の都合で変わる。適合の立証責任は利用者側にあり、記録がなければ補償そのものが機能しない
- 契約で受注側に「知財潔白であること」を保証させる — 発注側の負担は消えるが、達成できない義務になる。検知に完全さを期待できないため、この条項は紛争時に履行不能をめぐる争点へ変わる
- 新しい知財ゲートを設ける — 位置づけは明確になるが、判定の総数が増える。ADR-0013・ADR-0019 の原則に反する
- 第4章 G-5 に判定基準5(依存関係のライセンス検査)、G-7 に判定基準8(知財潔白性の検査記録)を追加した。ゲートは増えていない
- 第4章 G-5 に「知財潔白性の検査」の節を新設し、2つの対象を分ける表と、類似の検知を合否条件にしない理由を規定した
- 第6章 テンプレ8 に第7項「知財潔白性」を追加した(旧「7. 合意」は第8項へ繰り下げ)
- 第8章 軸D に知財潔白性の検査と結果責任の行を追加し、「生成手段を問わない」との両立を明記した
- フェーズ5
ci-gates.mdにip-clearanceジョブの構成例を追加した。合否条件のステップとcontinue-on-errorのステップを分けている。エビデンス集約にipClearanceフィールドを追加した - 調査根拠は
research/phase4-standard/129-ip-clearance.mdに記録した - IPA「情報システム・モデル取引・契約書」の検収の条項、契約の不適合責任の条項、第三者の権利侵害の条項は、本調査でも取得できなかった(Word 形式)。継続する未確認事項である。条項番号を引用していない
- ライセンス検出の精度を測った査読研究、および複製検知機能の検出率を測った独立の評価は特定できなかった。本標準はどちらの数値も引用していない
- 依存関係の自動解析が完全でないことの傍証として脆弱性検出の研究(2023年)があるが、測っているのは脆弱性であってライセンスではない。調査メモに明記した
- 決定9 により、類似の検知の実効性は組織が選ぶ手段に依存する。手段が存在しない領域では、記録は「実施しなかった」と残る。この状態を許容するかは各組織の判断であり、本標準は判定を止めない