ADR-0031: 市場・顧客仮説の検証を、企画書の欄ではなく体制と予算で担保する
採用(2026-08-12)
コンテキスト
Section titled “コンテキスト”部品として企画したプロダクトが、単体で外販または OSS として採用される可能性を持つ場合に、その市場価値を検討させる場が本標準に存在しないことが、実案件の運用で判明しました。
公開ドキュメント全体を検索した結果、「リーンキャンバス」「市場規模」「競合分析」「投資回収」「損益分岐」「チャネル」「課金モデル」の語は1件も現れません。企画書(テンプレ6)の6観点は、供給側(観点2 自社が勝てる理由)と価値の中身(観点3 受益者と価値)を問いますが、その価値が誰の何を置き換えて届くのかを問う欄がありません。
検討の過程で、次の3点が判明しました。
1. テンプレート側には既に代替手段の欄がある
Section titled “1. テンプレート側には既に代替手段の欄がある”配布用テンプレートには「現在の代替手段」「「ない」と書かない。手作業でも代替手段である」という欄が既に存在します。標準本体には存在しません。二重規範が生じています。加えて複製の検査は template/templates/ 配下の様式を対象としていないため、この乖離は検出されないまま拡大します。
2. 体制側に、答えを作らせる経路がない
Section titled “2. 体制側に、答えを作らせる経路がない”事業決裁者および価値責任者は体制図に存在し、調査を発注する決裁権限も持ちます。しかし次の3点が欠けています。
- D-0 表1 の決定の種類7つに、市場・顧客に関する決定の行がない
- 価値責任者の任命基準は「価値を語れ、優先順位を単独で決められる」に留まる。顧客接点の保有と、検証の設計・発注の能力を問うていない
- 予算の4区分(期間・要員・AI実行・基盤)に、検証活動の費用の枠がない
企画の欄は答えを書く場所ではなく、答えを作る活動を駆動する装置です。駆動された活動を担う主体・権限・予算を体制の側が持たなければ、書き手には作文しか残りません。欄の不足ではなく、体制の欠落が原因です。
3. 存在理由が失われる事象が、中止条件へ写らない
Section titled “3. 存在理由が失われる事象が、中止条件へ写らない”実案件では、観点5(事業リスク)に「単体で価値を出さず部品に留まる」と記載されている一方、観点6(中止条件)に対応する条件は現れませんでした。顕在化すると案件の存在理由を失う事象を特定済みであるにもかかわらず、止める条件になっていません。写せという規定の不在が原因です。
- D-0 表1 の決定の種類に「市場・顧客仮説の検証の実施」を追加する。誰が検証の実施を決め、誰が実行し、誰が意見を出すかを、案件の開始時に確定させる
- 価値責任者の任命基準に、顧客接点を持つこと、または検証の設計と発注ができることを追加する。確認の手続は既存の 3.4.1 による
- 検証活動の費用を予算区分に位置づける。新しい区分は設けず、期間予算の内訳として明示する。区分を増やすと配賦の単位が増え、統制の負荷が上がるため
- テンプレ6 観点2 に「現在の代替手段」および「その代替手段が使われ続ける条件」の行を追加する。観点は6つのまま維持し、ADR-0016 決定2 を変更しない
- 観点5 のうち、顕在化すると案件の存在理由が失われるリスクを、観点6 の中止条件へ写すことを要求する。新しい情報の記述を求めるものではなく、既存の記述の移送を求める
- 市場規模・チャネル・課金モデルの欄は設けない。理由は「検討した選択肢」に記録する
- 1〜2名の体制では、決定1〜3 が兼務または未達になる。テーラリングで宣言させ、ADR-0028の区別に従って未達と省略を分ける
- 複製の検査を
template/templates/配下の様式へ拡張する。標準本体の様式と配布テンプレートの見出し構成の対応を検査対象に含める
検討した選択肢
Section titled “検討した選択肢”- 観点3b「単体での到達と代替」を新設する — 需要側を問う欄を独立させる案。ADR-0016 決定2 が観点を6つと固定しているため、新 ADR による決定の変更を要する。得られる差分のうち2行は決定4 で、1行は決定5 で回収でき、残りは決定6 の理由により採らない項目である。新 ADR・G-1 基準の改訂・テーラリングの「1枚企画書」の再定義という3つの改訂に見合わない
- 市場規模(TAM/SAM/SOM)の欄を設ける — 経営層の評価軸に直接対応する。しかし単一の数字を作らせる欄であり、テンプレ6 が「単一の年額を要求してはなりません。要求すると、書き手はその数字を作ります」と禁じた形式と同型である。第4章も金額での定量化を義務づけない旨を規定し、ADR-0014決定9 もツール出力から総合スコアと百分率を排している。同一の警戒が3層に貫かれており、ここだけ逆を採ると一貫性が崩れる
- チャネルの欄を設ける — 到達経路は単体流通の成否を左右する。ただし「こう届けばこう売れる」という因果の連鎖の記述であり、ADR-0016 決定4 が禁じた形式に該当する。受け皿を持たない論点として残る点は「影響」に記録する
- 課金モデルの欄を設ける — 対価の設計は事業性の中核である。ただし無償で配布すると決めた案件には答えが存在せず、空欄は形式の検査に掛かる。書き手は検査を通すために、判断に用いられない記述を置く。これはADR-0028が区別した未達の宣言ではなく、記録だけが存在する状態を生む
- S0 探索ステージと SG-0 に委ねる — 市場性は企画書に記述する対象ではなく S0 で実証する対象である、という整理。SG-0 の基準「事業仮説が実証データで支持されている」は欄への記述より強い要求であり、この整理自体は正しい。ただしテーラリングで事業ステージに S1 以降を宣言した案件では S0 が手順に現れず、この経路では担保できない。決定1〜3 は、どのステージを宣言した案件にも効く
- 前提の台帳(テンプレ10)へ市場仮説を載せる — 未検証の前提を可視化し受容の決裁を求める仕組みは既に存在する。しかし台帳が扱うのは本標準が成立するために置いている前提(A-T1〜A-K3)であり、案件固有の事業仮説は対象外である。ADR-0018決定8 はリスク登録簿との統合も明確に否定している
- 経営層向けの1枚を新しいテンプレートとして作る — 評価項目がひとまとまりで見える様式は、決裁の実務で価値を持つ。ただし ADR-0016 決定1 が新規テンプレートを作らない方針を定めており、正本が増えればADR-0010の一元化にも反する。既存成果物からの投影として扱う案は、本 ADR の範囲外として別途検討する
- 決定1 により、テンプレ0(D-0)の表1 に行が1つ増える。作成済みの案件は次回のレビュー期日に追記する
- 決定2 により、価値責任者の任命基準に項目が1つ増える。3.4.1 の確認手続の対象が広がる
- 決定3 により、検証活動の費用の出どころが明示される。予算区分の数は変わらない
- 決定4 により、標準本体と配布テンプレートの二重規範が解消する。配布テンプレート側の既存表現を標準へ吸い上げる方向で統一する
- 決定5 により、企画書に新しい情報の記述は増えない。既存の記述の移送のみを求める
- 決定6 により、チャネルに対応する受け皿を持たない状態が続く。単体流通を前提とする案件では、この論点が無検査のまま残る。解消の時期は、到達経路を因果の連鎖によらない形式で記述する方法が見つかった時点とする
- 決定8 により、複製の検査の実行時間が増える。初回の実行では、現に存在する不一致を報告する
- 本 ADR の決定は、いずれも実証に基づかない。根拠は単一の実案件における観測と、本標準の既存の判断との一貫性のみである