第1章 総則 — AI協調型ソフトウェア開発プロセス標準
本ページは「AI協調型ソフトウェア開発プロセス標準」(以下、本標準)の総則です。本標準は、生成AIを開発の主たる実装主体として組み込みながら、日本の大企業が備える投資決裁・品質保証・監査の統制と接続できる開発プロセスを規定します。
1.0 名称
Section titled “1.0 名称”本標準の通称を ピットイン方式(PIT-IN)と定めます(ADR-0027)。
| 層 | 用途 | 名称 |
|---|---|---|
| 通称 | 口頭・検索・リポジトリ名 | ピットイン方式(PIT-IN) |
| 正式名称 | 稟議・QMS 文書・規格の引用 | AI協調型ソフトウェア開発プロセス標準 |
F1 のピット作業は、18〜20名が2秒以下で完了します。レースは止まりません。決められた場所でだけ人の手を入れます。この構成を本標準のゲートに重ねています。
本標準を一文にまとめると、次の要約になります。
- マシンは人間より速い。それでも、決められた場所では必ず人間が触る

図は2層からなります。内側のループは時計回りに、仕様承認(人)、AI 実装、自動検証(機械)、独立レビュー(人)の4工程を回ります。人が関わる2工程をピットボックスの形で示しています。外側の環は事業判断の節目で、既存の稟議・決裁制度をそのまま使います(第2章)。
1.1 目的
Section titled “1.1 目的”本標準の目的は次のとおりです。
- 生成AIを実装主体とする開発において、成果の品質・責任の所在・意思決定の記録を担保する要求事項を定めること
- 既存の品質マネジメントシステム(QMS)または決裁権限規程を有する組織では、それらを置き換えることなく、その上に AI 協調の運用を接続すること
- 組織・事業フェーズ・規模の違いをテーラリング(第8章)で吸収し、同一の成果定義のもとで運用できる状態を維持すること
ここでいう担保は、製品に欠陥が無いことの約束を意味しません。品質を保証する主体は本標準ではなく、本標準を適用した組織です。組織が主張できる範囲と主張しない範囲は 1.9 に定めます。
1.2 適用範囲
Section titled “1.2 適用範囲”| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 適用対象 | 生成AIエージェントを実装・設計・検証のいずれかに用いるソフトウェア開発およびその保守 |
| 適用組織 | 適用対象の開発または保守を行う組織。1名の体制を含む。品質マネジメントシステムと決裁権限規程のどちらも持たない体制を含む |
| 適用フェーズ | 企画・要件・設計・実装・検証・出荷判定・運用の全ライフサイクル |
| 適用外 | AI を一切用いない開発、および本標準の要求事項を既存規程が上位で禁止する領域 |
適用外の領域が存在する場合は、テーラリング(第8章)の記録として除外理由を残します。
適用組織を、既存の規程を持つ組織に限りません(ADR-0068 決定6)。品質マネジメントシステムまたは決裁権限規程を有する組織は、本標準をその上に接続します。どちらも持たない体制は、決定の権限を D-0 体制図に記名で定めます(第8章「会議体と体制図の調整」)。
1名の体制を適用組織に含めることは、その体制が品質保証の主張の成立条件を満たすことを意味しません。成立条件は 1.9 と第4章 G-7によります。本標準を適用していると言える時点と、適合を主張できる範囲は、1.10 によります。
1.3 引用規格および参照文書
Section titled “1.3 引用規格および参照文書”本標準は、次の規格・ガイドラインを前提として構成しています。
| 区分 | 文書 | 本標準での用途 |
|---|---|---|
| ライフサイクル | ISO/IEC/IEEE 12207:2017 | プロセスを「成果(Outcomes)」で定義する構成の根拠 |
| 品質マネジメント | ISO 9001 / JIS Q 9001 | 総則の構成、記録の管理、不適合出力の管理 |
| ソフトウェア適用手引 | ISO/IEC 90003 | QMS のソフトウェア開発への適用解釈 |
| AIマネジメント | ISO/IEC 42001:2023 / JIS Q 42001:2025 | AI の統制・責任・トレーサビリティ要求 |
| 国内ガイドライン | AI事業者ガイドライン(第1.2版、2026年3月公表) | 国内における AI 利活用の実務指針 |
| 機械安全 | ISO 12100 / JIS B 9700 | リスクアセスメントの手順(第6章・第7章で参照) |
| AI と機能安全 | ISO/IEC TR 5469:2024 | 安全関連機能の設計・開発に AI を用いる局面の整理(第6章で参照) |
1.4 用語の定義
Section titled “1.4 用語の定義”本標準で用いる主要な用語を次のとおり定義します。用語は後続の章の改訂に伴って追加します。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| AI協調ループ | 仕様承認・AI実装・自動検証・独立レビューを機能単位で反復する開発サイクル |
| マクロライフサイクル | 事業ステージの移行によって区切られる低頻度のプロセス階層 |
| 事業ステージ | 不確実性の低減段階を表す区分。S0 探索・S1 価値確立・S2 スケールの3段階(別称: DR0・DR1・DR2) |
| ステージ移行ゲート | 事業ステージの境界に置く制御点。SG-0・SG-1・SG-2。投資継続と移管の可否を判定する |
| 工程ゲート | 1つの開発サイクル内に置く制御点。G-1〜G-8。成果物を次工程へ進めてよいかを判定する |
| ゲート | 定められた判定者が、定められた基準との突合により次段階への移行可否を判定する制御点の総称 |
| 結果責任(A) | 成果の正しさに対する最終責任。成果物ごとに1名のみ割り当てる |
| 実行(R) | 実際の作業。AIエージェントは実行を担えるが、結果責任は担えない |
| 席 | ロールの別称。責務と、判定者となるゲートの組。体制が変わっても変わらない。責任者・担い手と対で述べるときに用いる(第5章 5.5) |
| 責任者 | 席の結果責任(A)を負う記名の自然人。席ごとに1名。体制の変化点でのみ変わる |
| 担い手 | 席の作業を実際に行う実行主体。人、または AI の実行主体の文脈。AI の担い手は、モデルの版・指示資産の版・権限の組で識別する |
| 運用形態 | 担い手が席の判断をどこまで進めるかの区分。人確定・協働・委任の3つ。上限は変更ごとのリスク区分で決まる(第5章 5.5) |
| 独立 | 確認する側が、作成を指示した側と別の自然人であること。人の単位でのみ用いる。構成の条件と、変更ごとの条件の2層で定める。構成の条件は、確認する席の責任者が、確認される側の席の責任者と別の自然人であること。変更ごとの条件は、変更を確認した人が、その変更の作成を指示した者と別の自然人であること。安全関連は組織上の独立を重ねる(第3章 3.5.4) |
| 開発ライン | 同一の案件の、開発者の席と独立レビュアの席。作成を指示する側と、それを独立レビュー(G-6)で確認する側を合わせて指す。出荷判定者の席と事業決裁者の席を含まない。この語を、ほかの意味に用いない。複数の案件にまたがる開発の単位は「開発組織」、案件に関わる人の全体は「案件に関与する者」と書く(第3章 3.5) |
| 第三者レビュー | 本標準を適用する組織と別の組織にあり、案件に利害を持たない者による検証。本標準のゲートには無い。独立レビュー(G-6)、同じ組織の別部門による検証、プロセス内部監査を、第三者レビューと呼ばない。同じ組織の別部門による検証は「組織上独立した検証」と呼ぶ |
| 契約上の確認行為 | 委託の契約が定める、発注側が納入物または実施された業務を確認する行為。検収、業務終了の確認、実施業務の確認が例に当たる。何が当たり、どの効果を持つかは、契約による。本標準のゲートの判定は、契約上の確認行為ではない(第8章 軸D) |
| 分離 | 文脈の分離(作業領域・セッション・認証情報が別)と、入力の分離(作成側の説明文・主張・推論の過程を確認側へ渡さない)の総称。分離だけでは独立は成立しない |
| 体制の変化点 | D-0 体制図、テーラリングの入力、担い手の適合性確認の前提のいずれかを変える変化。5種(第3章 3.13) |
| 保証の開示 | 出荷ごとに、独立性の成立状況・外した項目・未実施の検証・検出能力の測定値を1枚で示す記録。既存の記録からの投影。項目の正本は第4章 G-7「保証の開示」、読み方と定型の文は附属書H H.6 |
| 品質保証 | 顧客・社会のニーズを満たすことを確実にし、確認し、実証するために、組織が行う体系的活動(JSQC-Std 00-001:2023 の 1.3)。本標準が定めるのは、範囲・根拠・証拠を伴う品質保証の主張(assurance)であり、契約上の担保(warranty)と結果の約束(guarantee)を含まない(附属書H H.1) |
| 品質保証の主張 | 本標準を適用した組織が、宣言した保証範囲について、品質の要求事項が満たされるという確信の根拠を、証拠・論証・開示とともに示し、その責任を引き受けること。成立条件は第4章 G-7 による |
| トップマネジメント | 組織を最高位で指揮し管理する人または人々。品質保証の方針と受容の基準に記名し、組織の保証の主張の最終責任を負う |
| 品質保証の方針と受容の基準 | トップマネジメントが記名する、組織に1つの1ページの文書(層1)。保証の相手と範囲の方針、受容しない条件、外枠、受容の権限の段階、上申先の5項目。様式は第6章 テンプレ11 |
| 保証範囲 | 組織が品質を保証する対象(製品・リリース・利用条件・期間)。案件の開始時に G-1 で宣言する(層2)。範囲外の成果物について、組織は品質を保証すると主張しない |
| 外枠 | 受容の基準の前提となる、適用される法令・契約の要求事項・整合規格・技術水準・社会の許容。組織の受容の対象ではない |
| 検出の層 | 欠陥や逸脱を見つけるために置く確認のうち、ゲートの判定に数えないもの。AI の推定による確認が当たる。通過しても判定は成立せず、人の確認を減らす理由にもならない。検出率または「未測定」を開示する(附属書H H.4) |
| コンテキスト基盤 | AI に与える前提情報を、恒久層と案件層に分けて保守する仕組み |
| 会議体 | 単独の判定者では決められない事項を、定められた構成員により決定する場。B-1〜B-4 |
| 決裁権限マトリクス | 金額区分とリスク区分の交点によって決定者を一意に定める表 |
| リスク区分 | 決定の取り消し可能性と影響範囲による区分。R1〜R3 |
| 標準変更 | 手順とロールバック手段が確立し、事前承認済みとしてカタログに登録した反復的な変更。委任の範囲として登録した変更種別と同じものを指す(第3章 3.7.4、第5章 5.5.4) |
| 必達基準 | 1項目でも不合格であれば中止または保留の対象とする判定基準 |
| 評点基準 | 案件間の優先順位付けに用いる評価軸。単独の低評価では中止としない |
| コア機能 | 事業上致命的であり、人間による理解の維持を必須とする機能 |
| 理解保持者数 | 対象の機能について、他者へ問い合わせずに判断できる人数 |
| コンテキスト移管ゲート | 要員の交代に際して理解の断絶を防ぐ制御点。H-1〜H-3 |
| AI自律レベル | AIエージェントの自律の水準。監視者・フォールバックの担い手・適用範囲の3変数で定義する。L1〜L3 |
| 適用範囲 | AIエージェントが動作してよい領域。対象・環境・変更種別・リスク区分の4軸で記述する |
| 指示資産 | AIエージェントへ与える指示の集合。強制層・誘導層・再利用層の3層で構成する |
| 重大度(Severity) | 欠陥がもたらす技術的な影響の大きさ。Sev1〜Sev3 の3段階。観測可能な事象のみで判定する |
| 優先度(Priority) | 欠陥をいつ修正するかの順序。事業判断として人間が決める |
| 既知の不具合 | 未解消の欠陥のうち、回避策とともに利用者へ公開する一覧。内部の技術負債台帳とは別の成果物 |
| テーラリング | 組織・事業フェーズ・規模に応じて本標準の適用度合いを調整すること |
| 適用の開始 | 案件に本標準の要求事項が掛かり始める時点。テーラリングの宣言を案件の記録に残した時点(1.10.1) |
| 適用の表明 | 案件に本標準を適用していると、組織が述べること。未達のゲートの件数と記録の欠落の件数を併記する(1.10.2) |
| 適合の主張 | 案件が本標準の要求事項を満たしていると、組織が述べること。未達のゲートと記録の欠落が無い範囲に限る(1.10.2)。品質保証の主張とは別の主張である |
| 危険源 | 危害を引き起こす潜在的な根源。Hz-nnn で識別する |
| 危害のひどさ | 危険源が現実化した場合に生じる被害の大きさ。Hs1〜Hs3。重大度(Sev)が事後の観測であるのに対し、事前の見積りである |
| 安全リスク区分 | 危害のひどさ・暴露・発生確率・回避可能性から導く区分。SR1〜SR4 |
| リスク低減ステップ | 危険源への対処の段階。RRS1 実行不能化・RRS2 検知と承認・RRS3 情報提供。順序を入れ替えない |
| 安全関連ソフトウェア | 安全機能の実現・安全状態への遷移・監視と診断のいずれかを担う部分。無条件にリスク区分 R1 として扱う |
| 安全度水準 | 安全関連系に要求される安全性の水準の総称。具体的な指標は適用規格を特定してから確定する |
| 未検証の入力 | AI が生成した出力の初期状態。決定論的な検証を経て初めて成果物になる |
| 故障挿入試験 | 意図的に異常を発生させ、保護方策の動作を確かめる試験 |
1.5 本標準の構成
Section titled “1.5 本標準の構成”本標準は本文8章と附属書9編で構成します。本文と規定の附属書は、要求事項を規定します。参考の附属書は、背景・実施の手引き・問いへの回答を提供します。参考の附属書の記述は、適合の条件に数えません。
附属書の種別は、附属書の単位で宣言します。次の表の「種別」の列と、各附属書の表題に示します。本文は、規定の附属書を「〜によります」の形で引き、参考の附属書を「〜参照」の形で引きます。参考の附属書に、要求事項と禁止を置きません。判断の根拠は ADR-0063によります。
graph TD C1["第1章 総則"] --> C2["第2章 ライフサイクルと<br>マイルストーン"] C1 --> C3["第3章 実施体制・ロール・会議体"] C2 --> C4["第4章 ゲートと判定基準"] C3 --> C4 C1 --> C5["第5章 人間とAIの役割境界"] C5 --> C4 C4 --> C6["第6章 成果物・記録・<br>トレーサビリティ"] C4 --> C7["第7章 例外・エスカレーション"] C6 --> C8["第8章 テーラリング"] C7 --> C8
| 章 | 種別 | 表題 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 規定(本文) | 総則 | 目的・適用範囲・引用規格・用語・構成・主張の範囲・適用の開始と適合の主張 |
| 第2章 | 規定(本文) | ライフサイクルとマイルストーン | 事業フェーズ、マクロゲート、AI協調ループとの接続 |
| 第3章 | 規定(本文) | 実施体制・ロール・会議体 | ロール定義、RACI、任命・兼務、会議体と決裁権限、体制の変化点 |
| 第4章 | 規定(本文) | ゲートと判定基準 | 各ゲートの判定基準、期限、計測指標 |
| 第5章 | 規定(本文) | 人間とAIの役割境界 | AI自律レベル、判断の席と確定の担い手、形骸化の防止 |
| 第6章 | 規定(本文) | 成果物・記録・トレーサビリティ | 成果物様式、記録要件、データとの対応 |
| 第7章 | 規定(本文) | 例外・エスカレーション | 基準逸脱時の手続、期日リスク、上位への報告 |
| 第8章 | 規定(本文) | テーラリング | 組織条件に応じた適用度合いの調整、再テーラリングの契機 |
| 附属書A | 参考 | 設計の背景と由来 | 本標準の構造を採用した理由と既存プロセスとの対応 |
| 附属書B | 規定 | EARS 記法 | 受入基準を検証可能な形式で記述する方法 |
| 附属書C | 参考 | 独立レビュー実施ガイド | 独立レビューの実施手順 |
| 附属書D | 規定 | 導入提案書の様式 | 品質保証部門・決裁者への提案様式 |
| 附属書E | 参考 | 開発者のAI協調作業ガイド | 仕様の記述から差分の検証までの作業手順 |
| 附属書F | 規定 | 安全適合性の検証ガイド | 安全関連ソフトウェアの検証手順と AI 利用時の追加要求 |
| 附属書G | 参考 | 決裁制度への提示 | 経営層へ提示する1枚を、既存成果物からの投影として構成する作法 |
| 附属書H | 規定 | 品質保証の論証 | 組織の保証の主張と3層の構造、主張しないこと、主張・条項・証跡・主張の崩れを示す観測の対応、保証の開示の読み方(項目の正本は第4章 G-7) |
| 附属書I | 参考 | 採用判断の手引き | 採用を判断する者の18の問い(品質保証と組織継続)への本標準の回答 |
種別を附属書より小さい単位(節・段落)では宣言しません。規定の附属書の中の注記・例・理由の文は、本文と同じく説明として読みます(1.7.2)。
1.6 各章の入力・処理・出力(IPO)
Section titled “1.6 各章の入力・処理・出力(IPO)”本標準は、章ごとに入力・処理・出力を定義し、章間のトレーサビリティを確保します。
| 章 | 入力(Input) | 処理(Process) | 出力(Output) |
|---|---|---|---|
| 第2章 | 事業計画、投資枠 | 事業フェーズの判定、マイルストーン設定 | ライフサイクル計画、ゲート配置 |
| 第3章 | ライフサイクル計画、要員情報 | ロール任命、会議体設置、決裁権限の割当 | 体制図、RACI、決裁権限マトリクス |
| 第4章 | 各工程の成果物 | 判定基準との突合 | ゲート判定記録、差し戻し理由 |
| 第5章 | AI 能力の現状評価 | 役割境界の設定、理解度の測定 | 役割境界定義、AIX メトリクス |
| 第6章 | 各工程の作業結果 | 様式への記録、識別子の付与 | 成果物、記録、トレーサビリティ表 |
| 第7章 | 基準逸脱・期日超過の検知 | 影響評価、代替案の決定 | 例外承認記録、負債台帳への登録 |
| 第8章 | 組織条件(規模・フェーズ・規制)、体制の変化点 | 適用度合いの調整、変化点での再実行 | テーラリング記録 |
1.7 記述の原則
Section titled “1.7 記述の原則”本標準の記述は次の原則に従います。
- 本文と規定の附属書は、要求事項・推奨事項・許容事項を記述する。設計思想・検討経緯・比較検討は附属書A へ記載する
- 規定の強さは、文末の形で示す。対応は 1.7.1 による
- 説明は、理由の文と注記に書く。規定と説明の読み分けは 1.7.2 による
- 表の升に入れる語は、1.7.3 の語彙に限る
- 同じ事項の規定は1か所に書く。ほかの箇所は、その所在を引く
- 特定の製品名・組織内の口頭文脈に依存する表現は用いない
- AI の能力に関する記述には、その記述が妥当な時点(YYYY-MM-DD)を併記する
1.7.1 規定の表現形式
Section titled “1.7.1 規定の表現形式”本標準を適用する者が、適合を主張するために満たす要求事項を、文面から識別できるようにします。要求事項と、推奨事項・許容事項・可能性の記述は、文末の形で区別します。本文と規定の附属書に、次の表の形を使います。
| 種類 | 本文(ですます調) | 箇条書き・表(である調) | 意味 |
|---|---|---|---|
| 要求 | 〜します/〜とします/〜によります/〜しなければなりません | 〜する/〜とする/〜による/〜しなければならない | 適合を主張するには、これを満たす。逸脱を認めない |
| 禁止 | 〜しません/〜してはなりません | 〜しない/〜してはならない | 要求の否定の形。強さは要求と同じ |
| 推奨 | 〜することを推奨します/〜することが望ましいです | 〜することが望ましい/〜を推奨する | 特に適していると本標準が判断した選択。ほかの選択を排除しない。従わなくても適合する |
| 推奨しない | 〜しないことを推奨します | 〜しないことが望ましい/非推奨 | 適していないと本標準が判断した選択。禁止ではない |
| 許容 | 〜してよいものとします/〜して差し支えありません | 〜してよい/〜してもよい | 本標準がこれを認めている |
| 可能性・能力 | 〜できます/〜場合があります/〜ことがあります | 〜できる/〜場合がある/〜ことがある | 起こりうること、または行う力があること。本標準の許可ではない |
| 外部の制約 | 〜とされています/〜と定められています | 〜とされている/〜と定められている | 法令など、本標準の外が定めること。本標準の要求事項ではない |
- 本文と規定の附属書の地の文で、平叙の動詞文(「〜します」「〜しません」)は、要求事項として読む。「〜しなければなりません」と「〜します」の強さに差は無い
- 文末の「〜できます」を、許容の意味で使わない。許容には、表の許容の形を使う。「〜できます」は、可能性と能力の記述に限る
- 依頼の形(「〜してください」)と「〜すべきです」を、規定の文末に使わない。強さが決まらないためである
- 箇条書きと表の中の体言止めは、見出しの文または列の見出しが示す種類として読む
1.7.2 規定と説明の読み分け
Section titled “1.7.2 規定と説明の読み分け”次のものは説明です。要求事項として読みません。
- 理由の文。文末が「〜ためです」「〜からです」の文
- 注記(
:::note)、根拠水準のマーク(:::caution[暫定 …])、図、例 - 定義と事実の記述。名詞または形容詞で結ぶ文(「〜です」)
- 主語が「本標準」である文。「本標準は〜を課しません」「本標準は〜を定めません」は、課さないと決めたことの表明であり、本標準を適用する者への禁止ではない
- 参考の附属書の記述(1.5)
要求事項を、名詞で結ぶ文と注記に書きません。規定として効かせる事項は、1.7.1 の要求または禁止の形で書きます。
平叙の動詞文が説明か要求かを、機械は判定しません。迷う文は要求として読みます。要求の取りこぼしより、説明が要求として読まれるほうが安全なためです。
1.7.3 表の升に入れる語
Section titled “1.7.3 表の升に入れる語”| 升が示すもの | 使う語 | 意味 |
|---|---|---|
| 工程ゲートの状態 | 適用、簡略、統合、省略、未達 | テーラリングの規則が定める結果(ADR-0028)。組織が選ぶ余地を示す語ではない |
| 規定の強さ | 必須、禁止、推奨、非推奨、許容、不要 | 必須と禁止は要求。不要は、本標準がこれを求めないこと |
- 限定は、語の後ろの括弧に書く(例: 「適用(コア機能)」「統合(G-4 へ)」)
- 「省略可」「任意」「どちらでもよい」を使わない。許容(組織が選べる)とも規定(標準が決めている)とも読めるためである
1.7.4 検査と、その限界
Section titled “1.7.4 検査と、その限界”npm run check は、本文と規定の附属書について、依頼の形と「〜すべき」の文末、廃した升の語を検出します。参考の附属書については、要求と禁止の文末、実装マークを検出します。廃した言い回しの登録簿に載せた句は、公開ドキュメントと準拠テンプレートの全体から検出します。書式は規定の表現形式の検査によります。
「〜できます」が許容か能力かを、機械は判定しません。平叙の動詞文が要求か説明かも、判定しません。この2つは、人が読んで確かめます。
1.8 関連するフェーズ
Section titled “1.8 関連するフェーズ”フェーズ5(プロセス実装)とフェーズ6(プロセス運用)の文書は、本標準の構成(本文8章と附属書9編)の外にあり、本文に従属します。本文の要求事項を実装し、運用する手段を示します。フェーズ5 とフェーズ6 の記述は、本文の要求事項を狭めません。食い違う場合は、本文によります。
- ゲートを Git・CI 上で機械的に強制する方法はフェーズ5(プロセス実装)に示す
- 導入後の運用・測定・改善はフェーズ6(プロセス運用)に示す
- 組織条件を入力して調整結果を得る手段としてプロセス提案シミュレーターを提供する
1.9 本標準を適用する組織が主張できること、主張しないこと
Section titled “1.9 本標準を適用する組織が主張できること、主張しないこと”本標準そのものは、品質を保証する主体になりません。品質を保証すると主張し、その責任を負うのは、本標準を適用した組織です。最終責任はトップマネジメントにあります。本標準は、組織が保証を主張するための要求事項であり、その主張の拠り所です(ADR-0057)。
組織が主張できるのは、次のことです。
本標準を適用した組織は、トップマネジメントが記名した品質保証の方針と受容の基準のもとで、宣言した保証範囲について、顧客と社会に対し、品質を保証する。約束する品質を生成より前に人が定め、AI と独立な検証で確かめる仕組みを確立し(確実にする)、出荷ごとに開発ラインの外の記名の自然人が基準の充足と記録の完備を突合し(確認する)、確かめていない範囲と、受容の基準に照らして記名で受け入れた残存リスクを、保証の開示で示す(実証する)。
主張は3つの層で支えます。
| 層 | 内容 | 正本 |
|---|---|---|
| 層1 | トップマネジメントが記名する品質保証の方針と受容の基準。導入時と変化点だけで改める | 第6章 テンプレ11 |
| 層2 | 案件の開始時に、事業決裁者が G-1 で承認する品質の約束と保証範囲 | 第4章 G-1、第6章 テンプレ6 |
| 層3 | 出荷ごとの出荷判定(G-7)と、層1 に照らした残存リスクの受容(G-8) | 第4章 G-7・G-8 |
法令・契約・整合規格・技術水準・社会の許容は、層の外の前提条件(外枠)です。受容の対象ではありません。
主張は、出荷ごとに、保証範囲に入る変更が6つの成立条件を満たす場合に限ります。成立条件と判定は第4章 G-7によります。満たさない範囲は、「品質保証の対象外として出荷した」と顧客へ伝えます。1名体制は、外部の確認者を置かない限り、組織として品質を保証するとは主張できません。
この保証は、製品に欠陥が無いことの約束ではありません。組織の保証の主張は、次の事項を含みません。
- 欠陥が無いこと(結果の約束)
- 契約上の担保(仕様への適合や無償の修補の約束)
- 社内の受容が、製造物責任・契約責任・規制上の責任を限定すること
- 機械学習の振る舞いを持つ製品について、その振る舞いの保証(本標準の範囲外)
- 受入基準と試験計画が十分であること
- AI による確認が、独立した人の確認と同等であること
- 人のレビューが全行を読んだこと
- 抜き取られなかった範囲に逸脱が無いこと
- 既存規格への適合(1.3)
- 契約上の責任の帰結
主張の構造、成立条件の読み方、主張を支える条項と証跡の対応、AI による確認の数え方、署名の意味、出荷ごとの保証の開示、対外的に使う表現は、附属書Hに示します。附属書H は既存の条項からの投影であり、要求事項の正本は各章です。本標準の運用が欠陥の流出を減らしたという測定はありません。主張の成立条件が対外の根拠として足りるかも実証しておらず、根拠の水準は ADR-0057 に開示しています。採用を判断する者の問いへの回答は、附属書Iにあります。
1.10 適用の開始と適合の主張
Section titled “1.10 適用の開始と適合の主張”本標準を適用していることと、本標準に適合していると主張できることを区別します。品質保証の主張(1.9)は、このどちらとも別の主張です。判断の根拠は ADR-0068によります。
適用の単位は案件とします。
1.10.1 適用の開始
Section titled “1.10.1 適用の開始”適用の開始は、当該案件のテーラリングの宣言(第8章「調整は宣言を伴う」)を、案件の記録に残した時点とします。準拠テンプレートでは、構成の初期化がこれに当たります(準拠テンプレートリポジトリ)。
- 適用の開始より前の変更は、本標準の要求事項の対象としない
- 適用の開始の後は、テーラリングで導いた要求事項のすべてを、同時に適用する。満たしていない要求事項は、未達または記録の欠落として表示する
- 適用の開始の後に、ゲートを順に有効にしていく経過措置を設けない
- 強制の前に、違反に当たる操作を観測するだけの期間を置く場合は、適用の開始より前に置く。適用の開始の後に、強制層を観測だけの設定にしない
- 適用の開始より前の案件について、本標準を適用していると表明しない
導入の途中を表す状態を、本標準は設けません。「導入中」「準備中」「一部適用」に当たる状態と、その呼び名を定めません。意図的な決定です。途中であることは、未達のゲートと記録の欠落の件数で表示します。段階の呼び名は、満たしたという主張として読まれるためです。
適用の開始の後に満たす順序と、順序によらず動かせない要求事項の一覧を、本標準は定めません。導いた要求事項のすべてが、同時に掛かるためです。各要求事項の所在は、それぞれの章によります。
適用の開始の時点で満たしていない要求事項があることは、適用の開始を妨げません。準備を済ませてから開始するか、未達と記録の欠落の表示を受け入れて開始するかは、組織が決めます。
1.10.2 適用の表明と適合の主張
Section titled “1.10.2 適用の表明と適合の主張”| 述べること | 述べる条件 | 併記する事項 |
|---|---|---|
| 適用の表明(本標準を適用している) | 適用の開始の後である | 未達のゲートの件数と、記録の欠落の件数。無い場合は 0 件と書く |
| 適合の主張(本標準に適合している) | 適用の開始の後で、未達のゲートと記録の欠落が無い範囲に限る | 主張の対象とする範囲(期間またはリリース) |
- 件数は、表明の対象とする案件について、適用の開始から表明の時点までを数える
- 未達のゲートの件数と記録の欠落の件数を併記しない表明を、本標準に基づく適用の表明として扱わない
- 未達のゲートがある期間と、記録の欠落がある範囲について、適合を主張しない
- 適用の表明と適合の主張は、品質保証の主張ではない。保証の主張の成立条件は 1.9 と第4章 G-7 による
- 対外の文書での書き方は、附属書H H.8 による
1〜2名の体制は、D-0 体制図の表5(人の名簿と席)から独立レビュー(G-6)の確認者を確かめられるまで、G-6 が未達です(第8章 軸A)。準拠テンプレートでは、構成の初期化の直後がこれに当たります。この間に述べられるのは、適用の表明までです。未達が解けても、保証の主張の成立条件を満たすとは限りません(1.9)。
本標準は、適用の表明と適合の主張を誰が確かめるかを定めません。本標準に、認証の制度はありません。