こんなときどうする
規程は引ける状態にあって初めて働きます。本ページは、困っている人が症状から引ける逆引き表です。原因の分類はリスクカタログが扱います。
全体に共通する3つの原則
Section titled “全体に共通する3つの原則”| # | 原則 | 意味 |
|---|---|---|
| 1 | 報告が先、調査は後 | 報告の時点で原因と経緯の説明を求めない。報告を遅らせる唯一最大の要因が説明の負担である |
| 2 | 迷ったら重いほうへ倒す | 重大度の判定は当番が単独で即断する。合議にかけない |
| 3 | 上げた先には応答の義務がある | エスカレーションは丸投げではない。受けた側には期限内に応答する義務が生じる |
原則3を欠く組織では、エスカレーションしても結局は現場で対応する状態が定着します。この状態はエスカレーションを名目化させ、次からは誰も上げなくなります。期限と措置は7.5 判定の滞留に対する措置に規定します。
壊れた・止まった
Section titled “壊れた・止まった”| こんなとき | まず何をするか | 決める人 | 参照 |
|---|---|---|---|
| 本番でサービスが止まった | 重大度を単独で判定し、Sev1・Sev2 なら即時に連絡する | 当番 | インシデント対応 |
| データの破損・漏えいが疑われる | Sev1 として扱う。証拠を消さずにアクセスを遮断する | 当番 → 事業決裁者 | 同上、避難訓練の類型D |
| CI が壊れて誰も検証できない | 復旧を当日の最優先の作業に置く。検査を無効化して先へ進めない | 技術判断者 | CI ゲート |
| 直せば直すほど壊れる | 修正を止め、変更を戻す。原因の特定を修正より先に置く | 技術判断者 | 挙動検証 |
| 復旧を急いでいて手順を飛ばしたい | 飛ばさない。hotfix でも PR と CI を通す | 技術判断者 | Git 戦略 |
検査の除外設定を復旧のために広げてはなりません。一度広げた除外は、以後すべての通過を無効化します。やむを得ず広げた場合、内部監査の観点4で検出される対象になります。
間に合わない
Section titled “間に合わない”| こんなとき | まず何をするか | 決める人 | 参照 |
|---|---|---|---|
| リリース直前に重大な不具合が出た | 出荷判定を「未達」として記録する。「省略」と区別する | 出荷判定者 | ADR-0028、ゲート判定基準 |
| 期日に間に合わないと分かった | 増員と残業より先にスコープの削減を検討する | 価値責任者 | スコープの三層 |
| 期日制約でどうしても手順を縮めたい | ファストトラックを申請する。後回しにできる対象は限定される | 事業決裁者 | 7.4 ファストトラック |
| ここまで投じたので中止できない | 中止の判断基準に当てはめる。判断は当事者以外が行う | 事業決裁者 | 7.7.3 中止の判断基準 |
| レビューが追いつかず滞留している | 負荷を測り、束ねる単位を小さくする | 技術判断者 | レビュー負荷の測定、スタック PR |
遅延は人の問題ではありません
Section titled “遅延は人の問題ではありません”遅延に対する既定の対処を「もっと働く」に置くと、疲弊が誤りを増やし、遅延がさらに広がります。遅延はスコープの問題として扱います。残業で吸収した事実は記録に残らないため、後から検証もできません。
判断の順序を次に固定します。
- 削れる範囲を出す(削れないという結論も、根拠とともに記録する)
- 期日を動かせるかを確かめる
- 上の2つが尽きた場合に限り、要員の追加を検討する
人がいない・判断が返ってこない
Section titled “人がいない・判断が返ってこない”| こんなとき | まず何をするか | 決める人 | 参照 |
|---|---|---|---|
| 承認者が不在で先へ進めない | 滞留の措置を適用する。待ち続けない | 価値責任者 | 7.5 判定の滞留に対する措置 |
| 中核の開発者が抜けた | 引き継ぎの期限を通知日からの相対で決める | 技術判断者 | ADR-0022 |
| 任命基準を満たす人がいない | 期限付きの暫定任命とし、期限を記録する | 価値責任者 | 3.4 任命基準 |
| 独立レビュアを立てられない | 兼務の可否を確認する。禁止の組み合わせは崩さない | 技術判断者 | 3.5 兼務ルール |
| 規模が小さく手順が重すぎる | テーラリングで縮約する。縮約した事実を記録する | 価値責任者 | 第8章 テーラリングガイド |
言い出しにくい
Section titled “言い出しにくい”ここが本ページの中心です。報告されない事象は、存在しない事象として扱われます。
| こんなとき | まず何をするか | やってはいけないこと |
|---|---|---|
| 自分の操作が原因かもしれない | 事実だけを時系列で報告する。原因の推定を待たない | 原因が確定するまで黙る |
| 報告すると責められそう | 報告する。ポストモーテムは責めを問わない前提で書く | 個人名を主語にした説明を先に用意する |
| 上位から強行の圧力がある | 圧力の有無ではなく基準で判定する。判定と理由を記録に残す | 口頭の合意だけで通す |
| 会議で全員が賛成していて言い出せない | 反対の観点を明示的に求める場を使う。異論は記録する | 全員一致を「問題なし」と読む |
| 小さな逸脱なので今回も見逃したい | 逸脱を記録に残す。判定は4値のいずれかで示す | 「今回も大丈夫だった」を根拠にする |
報告の様式に自己弁護を求めません
Section titled “報告の様式に自己弁護を求めません”報告の様式が「なぜ起きたか」の説明を報告者へ求める構成であると、報告は自己弁護の作業になります。様式は事実の記述だけを求めます。原因の分析は、報告を受けた後の別の工程です。
分析の際は、原因を改善サイクルの3区分(システム起因・リスク認識の不足・意図的な逸脱)へ仕分けます。この区分を報告者に選ばせません。
割り込みたくない・割り込まれたくない
Section titled “割り込みたくない・割り込まれたくない”言い出しにくさの一部は、相手の作業を止める負い目から生じます。緊急でない申し送りには、非割込型の受け渡しを使います。手順はラベルメールボックスに規定します。
AI が原因かもしれない
Section titled “AI が原因かもしれない”| こんなとき | まず何をするか | 決める人 | 参照 |
|---|---|---|---|
| 生成されたコードの挙動を説明できない | 取り込まない。説明できるまで差し戻す | 開発者(検証者) | ADR-0012 |
| 機密の情報を指示に入力してしまった | 事象として即時に報告する。入力の取り消しを待たない | AI 運用担当者 | AI 実行環境 |
| エージェントが想定外の操作をした | 実行の記録から範囲を確定する。権限を先に絞る | AI 運用担当者 | エージェント実行の追跡 |
| AI の要約を信じて判断してしまった | 判断の前提を記録し、一次資料と突き合わせる | 価値責任者 | レビューパッケージ |
| AI が同じ誤りを繰り返す | 個別に直さず、恒久層のコンテキストへ書き戻す | 文脈オーナー | コンテキスト基盤 |
| 生成物の権利関係が不安 | 証跡を残す。証跡は保証ではないことを前提に判断する | 事業決裁者 | ADR-0021 |
| こんなとき | まず何をするか | 決める人 | 参照 |
|---|---|---|---|
| 依存ライブラリの重大な脆弱性が公表された | 使用の有無ではなくどの環境にどの版があるかを先に確定する | 技術判断者 | 避難訓練の類型B |
| 外部 API・SaaS が仕様変更または停止した | 前提の失効として扱い、影響範囲を出す | 技術判断者 | 前提台帳 |
| 苦情が急増した・炎上した | 事実と未確定を分けた暫定の回答を出す | 事業決裁者 | 避難訓練の類型D |
| 規制・業界基準への非準拠を指摘された | 出荷を止める判断を先に行う | 出荷判定者 | 安全性の検証 |
| 企画の前提が市場の変化で崩れた | 前提台帳を更新し、中止の判断基準に当てはめる | 事業決裁者 | 7.7.3 中止の判断基準 |
表に載っていないとき
Section titled “表に載っていないとき”該当する行がない場合の手順を次に定めます。
- 影響先(ヒト・モノ・カネ・時間)を1つ以上選ぶ
- リスクカタログで同じ影響先の行を探し、リスクオーナーを特定する
- オーナーへ事実だけを報告する。原因が分からない状態でよい
- 事象が収束した後、本ページへ行を追加する提案を出す
本ページに行がないことは、対応しなくてよいことを意味しません。行の追加は改善サイクルで扱います。
このページの限界
Section titled “このページの限界”- 逆引きの表であり、手順の詳細を持たない。詳細は参照先の規定にある
- 症状の分類は例示である。実際の事象は複数の行にまたがる
- 本ページを読む余裕がない状況(重大な障害の最中)では機能しない。その状況に備えるのが開発避難訓練である
関連するページ
Section titled “関連するページ”- リスクカタログ — 症状の背後にあるリスクの分類
- インシデント対応 — Sev 判定とポストモーテム
- 開発避難訓練 — 本ページを引く練習
- 第7章 例外・エスカレーション — 滞留・例外・中止の規定